2009年1月30日金曜日

シチリアの岩塩

イタリアの天日塩の話のついでに、リクエストをいただいたので、イタリアの岩塩についてもちょっと情報を探してみました。

まずは基本的な話。

塩は主に、海水から作るものと、地下から採掘するものがありますよね。
で、地下から採掘するのが岩塩。

財団法人塩事業センターのhpによると、岩塩とは、

大昔、海の一部が大陸の移動や地殻変動で陸地に閉じ込められ海水の湖となったものが干上がって塩分が結晶化し、その上に土砂が堆積してできたと考えられています。

形成時期は5億年から200万年前といわれ、世界にある岩塩の推定埋蔵量は、現在知られているだけでも数千億トンにもなり、岩塩由来の地下かん水も含めると、世界の塩の生産量の約3分の2が岩塩からつくられています。

このように地球上には多くの岩塩が埋蔵されていますが、日本国内には存在しません。

岩塩の採鉱法には「乾式採鉱法」と「溶解採鉱法」の2通りあります。
岩塩は重金属などの異物を含んでいることがあるため、食用にはそのまま供されることは少なく、一旦水に溶かして異物を取り除いてから再び結晶化させる方法がとられています。


岩塩の採掘方法


イタリアには、シチリア、トスカーナ、カラプリアなどに岩塩の鉱山があります。
ただし、イタリアで消費される塩の95%は海水から作られる塩なんだそうで、岩塩の鉱山自体は減りつつあります。

ちなみに、イタリア語で「岩塩」は、“サルジェンマ salgemma ”と言います。
いわゆる「あら塩」は“サーレ・グロッソ sale grosso ”ですが、これは粒のあらい塩全般のことで、海水塩、岩塩のどちらにも使います。


イタリアを代表する岩塩メーカー、Italkaliは、シチリアのペトラリーア、ラカルムート、レアルモンテの鉱山で岩塩を採掘しています。

hpのトップページには、巨大な岩塩の地層の写真が。

ペトラリーアの鉱山はヨーロッパの中でも含有量の多い鉱山で、海抜約1,100mの高さの山の中に埋まっています。
面積は2km2、地層の厚さは250m。
パレルモ県の西の端にあります。

ラカルムートとレアルモンテは島の南側にあり、ラカムートはアグリジェントの東、レアルモンテはアグリジェントの西にあります。

以前はこの他にも鉱山があったのですが、現在、シチリアの鉱山というと、大体この3か所のことのよう。

Italkaliは昨年からカナダに岩塩の輸出を始めたそうで、シチリア産岩塩の市場はどうやら拡大しつつあるようですねえ。


ところで、日本でシチリアの岩塩として販売されている塩の中に、「ペレッリーノ鉱山の塩」というのがあるのですが、このペレッリーノ鉱山というのがいくら探しても見つかりません。
いったいシチリアのどこにあるのか、ご存じの方がいたらぜひ教えてください!


さて、岩塩と海水塩はどう違うのでしょうか。

社団法人日本塩工業会のhpによると、岩塩と海水塩の違いは、「岩塩の方が硬くて溶けにくく、マグネシウムなどのにがり分を含まない」のだそうです。

そしてビックリなのが、食用の岩塩はミネラルをほとんど含まない、という事実!

岩塩て、ミネラルが豊富なんだとばかり思ってましたよー。
しかも、「海水塩になくて岩塩にはある、というような価値のある栄養素はまだ発見されていない」とは・・・。

シチリアの岩塩、メキシコの天日塩、食塩の成分を比べた表もありますねー。
それを見ると確かに、塩化マグネシウムだの塩化カルシウムだの塩化カリウムだのの含有量は、ゼロ!

なんだかますます分からなくなってきたなあ。

まあつまり、にがり成分がないから、刺激が少なくてまろやかに感じる、ということでしょうか。


塩事業センターの調査によると、塩を買う時、“消費者は「原材料」や「製造方法」よりも、「産地」や「成分(塩分以外)」を重視している”のだそうです。

言われてみれば、確かにその通りかも。
“シチリア産の塩”と聞くと、なんとなく日本の塩とはかなり違う塩のようなイメージがあるし・・・。

でも、塩のことを調べれば調べるほど、産地がどこかより、原材料や製造方法の方が重要という気がしてきます。
これらの表示がなくても、産地のイメージを強調するような抽象的な宣伝文句につい釣られてしまっていた自分に気がついた今日この頃です。



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2009年1月26日月曜日

サルデーニャの塩

イタリアの天日塩の話、最終回です。

イタリアで現在稼働中の塩田は4地域。
プーリアのマルゲリータ・ディ・サヴォイア、ロマーニャのチェルヴィア、シチリアのトラーパニ地方、そして4つめは、サルデーニャのサンタンティオコの塩田。


サンタンティオコはサルデーニャの南東の端にある島で、イタリアで4番目に大きな島。
隣には、マグロ漁の“マッタンツァ”で有名なサン・ピエトロ島があります。
サンタンティオコ島には美しい砂浜がたくさんあり、ビーチリゾートとしても人気。
でもその割には観光客が少なめで、ちょっとした穴場なんだとか。


海も空ま真っ青のサンタンティオコ島

潟の夕暮れ時


島の伝統的な衣装



塩田は、正確には島にあるのではなく、島の向かい側の、サルデーニャ島のコルティオイスという所にあります。

サンタンティオコの塩田



この塩田は、以前はイタリアたばこ法人が所有していましたが、現在は大部分がSalapia Saleという企業に買収されています。
この企業はプーリアのマルゲリータ・ディ・サヴォイアの塩田も所有していて、本拠地もマルゲリータ・ディ・サヴォイアにあります。
資本の5%はマルゲリータ・ディ・サヴォイア市の出資。
海塩だけでなく、トスカーナのヴォルテッラにある岩塩の鉱山も所有している大企業です。
つまり、実際の経営はプーリア側に握られている訳です。

Salapia Saleが、マルゲリータ・ディ・サヴォイアやサンタンティオコの株式を取得したのは2003年のこと。
その後リストラなども行っていて、効率重視路線が一段と強くなっているようです。

サルデーニャの塩は、主に工業用に使われていますが、家庭用の塩もあります。
プーリアの塩と同様、安定した品質とお手頃な価格、というイメージでしょうか。
家庭用の塩は、各メーカーがこの塩田の塩を仕入れて加工して販売しているので、市場には様々なタイプのサルデーニャの塩があります。
今後サルデーニャの塩がどのような姿になっていくかは、経営者のプーリア側とサルデーニャの塩業界との関係次第ですね。



おまけ

車エビの岩塩焼き
ブランデーで火をつけて・・・。


うちの生ハムは未精製の海塩しか使いません


イタリアの塩事情は、なかなか複雑なようですねー。
大量に出回っているのは、日本と同じで、天日塩を仕入れて、それを一度溶かしてから再び塩にした再生加工塩。
イタリアの天日塩は、大きく分けると、近代的な設備で大量生産した塩と、伝統的な製法で作られた自然のままの塩の2種類。
伝統的な製法の塩の中でも、すべて手作業ともなると数倍の値段。
安い手作り塩というのはあり得ないんですねえ。

どうやら、単純に産地だけで塩を判断することはできない様子。
そう思って改めてイタリアの塩を日本のサイトで探してみたら、天日塩を加工したものがほとんどなんですね。



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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2006年11月号(クレアパッソで販売中)
“世界の塩、イタリアの塩”の解説は、「総合解説」'06&'07年11月号、P.16に載っています。


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2009年1月23日金曜日

トラーパニの塩田

今日はトラーパニの塩の話。

シチリアの天日塩の産地は、島の西側、トラーパニ県にあります。



トラーパニの塩田, photo by Vento di Grecale


トラーパニの塩田のスライドショー

トラーパニの塩田は風車がシンボル。


トラーパニ県の塩田は、北のトラーパニから南のマルサラまで約25㎞の間に、トラーパニとパチェーコ、モツィア、マルサラの3地区に分かれてあります。
全ての地区が、2つの自然保護区の中に含まれています。

この地域の平均気温は17.9度。
トラーパニの年間降雨量は約440ml。
ちなみにイタリアの年間降雨量は約1000mlで、日本は1730ml。

トラーパニ地方は、夏にはシロッコ、冬にはトラモンターナと呼ばれる季節風が強く吹きます。
シロッコはアフリカから吹いてくる暑い南東の風で、トラモンターナは北風。
風車もよく回りそうですねー。
この風車、海水を低い塩田から高い塩田に移す作業と、塩を挽く作業に一部が使われています。


トラーパニの塩田は、夕暮れ時の美しさでも有名。
行く機会のある人は、この素晴らしい景色をお見逃しなく。

トラーパニの塩田の夕暮れ


トラーパニの塩の中でも手作業で作られているものは、スローフードの後援食材に指定されています。
ただし、その量はごく一部。
スローフードのサイトによると、トラーパニの手作りの塩は、他の塩と比べるとカリウムとマグネシウムの含有量が多く、塩化ナトリウムの割合は少なめなんだそうです。


手作りの塩の他に機械を使って作られている塩もある訳で、一般的に、トラーパニ地方の天日塩は、味が強めと言われています。
そしてもう一つ、溶けやすいのも特徴。
これはつまり、塩漬けなどに適した塩、ということです。

塩漬けに適した塩、という訳で、トラーパニの塩は外国にもよく売れました。
最盛期は19世紀末。
一番のお得意さんは、北ヨーロッパやスカンジナビアの魚が獲れる国々です。
鱈や鮭を、シチリアの天日塩で漬けていたんですねえ。
パルマの生ハムの中にも、トラーパニの塩を使っているところがあるそうです。

戦後、塩の専売制度によってアドリア海やシチリア東部の塩田が姿を消す中、トラーパニの塩田も生産量がどんどん減っていきました。
最盛期には11万トンあった生産量が、1955年は5万トンまで落ちています。
そこで生産者たちは、トラーパニの塩作りのシステムの根本的な改革に取り組みました。
離れた位置にあった塩田を移動し、貯蔵庫を港の近くに移すなどの大規模な改造を行ったのです。
改革は順調に効果を見せていました。
ところがその矢先の1965年と1968年、トラーパニは洪水に見舞われてしまいます。

その後しばらく、トラーパニの製塩業は崩壊の状態にありました。
製造業者が再び組合を結成して、本格的に輸出を開始したのは1980年のこと。
そして今や、日本のスーパーにも並ぶようになったという訳です。


ところで、トラーパニの塩は塩漬けに適した塩・・・。
塩漬けの魚を大量に消費している日本が、これをほっとく訳ないですよねえ。
『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の記事によると、最近の主な輸出先には日本やカナダも含まれているようで、塩ジャケにトラーパニの塩が使われる、なんて日も来るのでしょうか。



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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2006年11月号(クレアパッソで販売中)
“世界の塩、イタリアの塩”の解説は「総合解説」'06年'07年11月号、P.19に載っています。


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2009年1月19日月曜日

カミッローネの塩田

チェルヴィアの塩の話、続けます。


チェルヴィアの塩田は827ヘクタールの広さがあります。
昔はこの中に、149の塩田がありました。
塩作りの技術は、長年に渡って、父から息子へと受け継がれてきました。
子供たちは幼い時から塩田の中で遊び、父親のまねをして塩作りを学んでいたのでした。

ところが、1959年に塩の専売制度が施行され、塩の生産は効率重視の方針に変わります。
チェルヴィアの塩田で残ったのは、約10個の大規模なもののみ。
伝統の技を受け継いできた人たちは、すべて切り捨てられてしまいました。
彼らに与えられた新しい仕事は、大量生産のための単純作業・・・。

大量生産の塩を作りながらも、かつての職人たちは、先祖から受け継いできた技を残したい、という思いを強く抱いていました。
エトルリア時代から続く塩、というのが彼らのプライド。
そして生まれたのが、かつての職人たちが集まって塩の博物館を作り、さらに、カミッローネの塩田をチェルヴィア市が買い取って、再び塩を作る、という構想です。

カミッローネの塩田は、149個の塩田のうち、89番の塩田でした。
総面積は2570平米。
実はこの塩田は、砂が多くて管理に手間がかかり、誰もが割り当てを嫌がるような塩田でした。
元々チェルヴィアの塩田は、シチリアのトラーパニなどと違って、周辺に川が多く、塩分濃度が低くなりやすいという問題もあります。
そんな環境で、古い技術だけを使って塩を作るというのは、かなり大変な作業。
でも、様々な問題を克服しながら、現在では年間50~200トンの塩を製造しています。
塩造りの期間は6月前半から9月末まで。
47人の職人が塩の製造に携わっています。
2004年にはスロー・フードの後援食材にもなりました。


カミッローネの塩田1

カミッローネの塩田2

こうやって板で押して塩を片側に寄せます。
これは一番のベテランが行う作業。
残りの人は、この塩を木のスコップですくって水路のわきに積み上げます。


カミッローネの塩田3

カミッローネ塩田の看板には、「エトルリア時代」の文字が・・・



チェルヴィアの塩は1kg約1ユーロですが、カミッローネの塩は750gで4.2ユーロ。
職人さんたちの思いと汗がこもっている塩です。

カミッローネの塩



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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2006年11月号(クレアパッソで販売中)
“世界の塩、イタリアの塩”の解説は、「総合解説」'06&'07年11月号、P.16に載っています。


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2009年1月16日金曜日

イタリアの天日塩、マルゲリータ・ディ・サヴォイアとチェルヴィア

イタリアの天日塩の話、その2です。

プーリアにあるヨーロッパ最大級の塩田、マルゲリータ・ディ・サヴォイア

マルゲリータ・ディ・サヴォイア塩田

この塩田の塩は、イタリアタバコ公社が設立したATISALEという企業によって、イタリア中のタバッキや大手流通業者を通して販売されています。
工業用の製品もあり、輸出もしています。
ちなみに、ATISALEの株式は、2003年にSALAPIA SALEという地元の企業が100%買収しています。

ATISALEはマルゲリータ・ディ・サヴォイア以外の塩も扱っていますが、マルゲリータ・ディ・サヴォイアの塩の一部は、“プーリアの塩”として販売しています。

こんな商品
 ↓
atisale.com/Sapori di Puglia


こちらは様々な天日塩。
 ↓
atisale.com/Sale Marino Chef

これらの塩の名前を見ると、“Iodato”という言葉がやたらに多いと思いませんか?
iodatoとは、「ヨウ素を加えた」という意味です。
塩にヨウ素を加える?
どういうことでしょうか。

財団法人塩事業センターのhpに、こんな説明がありました。
 ↓
shiojigyo.com

「ヨウ素(ヨード)が不足する国や地域では、ヨウ素欠乏症を防ぐために食用塩にヨウ素が添加されることがあります。
日本人はヨウ素を含む海藻類をよく食べますのでヨウ素の摂取不足から起こる病気にかかる心配はありません。
なお、ヨウ素(ヨウ化物)は日本では食品添加物として認められていませんので、国内で生産、販売される食用塩に添加すること、添加された食用塩を輸入することは禁止されています。 」

ほお~、海藻をあまり食べないイタリアでは、ヨウ素入りの塩も必要なんですねー。
国によっては国産のすべての塩にヨウ素を添加しているところもあります。
イタリア暮らしが長いみなさん、ヨウ素、摂ってますか?

マルゲリータ・ディ・サヴォイア塩田は、規模が大きいだけあって、完全に機械化されています。
品質管理がしっかりしていて上質の塩を生産している、という評価のよう。
ただ、味についての評価は、ネット上では見つからないですねえ。
やはり大量生産品。
個性よりも価格や安定性で勝負、ということなのかもしれません。


味の個性という点で特徴的なのが、マルゲリータ・ディ・サヴォイアと同じくアドリア海に面した、ロマーニャ地方のチェルヴィアの塩田の塩。
この塩は、“sale dolce~甘い塩”と呼ばれています。
salinadicervia.itによると、苦みの元となる硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、塩化マグネシウムなどの含有量が少ないからなんだそうです。


この塩田の面積は827ヘクタール(ちなみにマルゲリータ・ディ・サヴォイアは4500ヘクタール)。
昔ながらの製法で天日塩を作っていたのですが、塩が国の専売品になって効率が重視されるようになり、一時閉鎖されたこともあります。
その期間は1999年から2003年。
わずか5年前まで閉鎖されていたんですねー!
2003年に、チェルヴィアの塩田は国からチェルヴィア市に譲渡されました。
現在この塩田は、Parco della Salina di Cerviaという公共出資主体の企業によって運営されています。
塩田の素晴らしい自然と伝統的な製法で作る塩、それらを守っていくというのが目的。


チェルヴィアの塩田






チェルヴィアの塩の話、次回に続きます。



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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2006年11月号(クレアパッソで販売中)
“世界の塩、イタリアの塩”の解説は、「総合解説」'06&'07年11月号、P.16に載っています。


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2009年1月14日水曜日

イタリアの塩

まずはクレアパッソからのお知らせ。
次の配本号、'06&'07年11月号は、1月17日(土)に発送予定です。


そして今日は、次の配本号から、「」の話。
『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の記事の解説です。

この記事では、イタリアにはどんな塩田があって、それぞれどのような特徴があるか、どんな料理に利用すると効果的かを簡潔に説明しています。

イタリアの塩は日本のスーパーでも売られていて、今やなかなか身近な存在。
主に「シチリアの海塩」などのキャッチフレーズで、地中海、というイメージを強く出して売っているようですね。


salina
トラーパニの塩田, photo by mafalda.foto


地中海の真っ青な海、カラッとピーカンのこれまた青い空、照りつける太陽、そして目に刺さるような白さの塩の山・・・。
どこまでもイタリア~ンで地中海~な風景ですねー。

日本にはこういう風景、ないですよねー。
そもそも、太陽と風で水分を蒸発させて作る天日塩は、雨が多い日本では大量生産は不可能なんだとか。
え、じゃあ赤穂の塩は?伯方の塩は?
実はすべて、メキシコやオーストラリアから輸入した天日塩が原料なんですねー。
これを再び海水で溶かし、煮詰めたり乾燥させたりして、「伯方の塩」とか「赤穂の塩」として売っている訳です。
再生自然塩と言うのだそうです。

伯方の塩ができるまで
 ↓
hakatanoshio.co.jp


日本と違ってイタリアは乾燥しているから天日塩がたっぷりできそう。
なんですが・・・。
実際の話、イタリアに塩田がいくつあると思いますか?
今も稼働しているのは、たった4地区だけなんだそうです。

さて、その4か所とはどこでしょう。

一般的にシチリアの塩、と呼ばれているものは、トラーパニの塩のこと。
この他に、チェルヴィアの塩とサルデーニャの塩は名前が知られてますよね。
チェルヴィアは、ロマーニャ地方の、ラヴェンナの少し南にある町。
アドリア海に面しています。
サルデーニャの塩と呼ばれているものは、サルデーニャの左下にある小さな島、サンタンティオコ島の塩のこと。

それでは、残る1つはどこでしょう。

実は、この残りの1つは、イタリアで最大の塩田なんですねー。
地中海全体でも最大規模。
年間の平均製造量は60万トン。
U.S.Geological Survey 「Minerals Yearbook 2003」によると、2003年のイタリアの塩の生産量は360万トンなので、約16%を占めていることになります。
おそらく、イタリアで流通している国産海塩の大部分は、この塩田のものじゃないでしょうか。
地中海の塩の、裏の王様?

それは、プーリアのマルゲリータ・ディ・サヴォイア塩田。
アドリア海に面していて、ブーツの形をしたイタリアの、拍車の下あたりにあります。


Tramonto sule saline
マルゲリータ・ディ・サヴォイア塩田の夕日, photo by Smeerch


長さ20㎞で幅は5㎞。
自然保護区に含まれていて、野鳥の楽園でもあります。
元々は海に接した湖だった場所で、大昔から自然に塩ができ、ローマ時代にはすでに大々的に利用されていました。
中世になると湖は塩田に造り変えられ、人の手によって塩を作るようになります。

この塩田は、一部が赤いことでも知られています。
これは、塩化ナトリウム濃度が高い場所に繁殖する“高度好塩菌”に含まれるベータカロチンのせい。
アメリカのグレートソルトレイクも、この菌のせいで赤くなっている部分があります。
この現象は、塩分濃度の高い湖や塩田にはよく見られるものですが、雨が多い日本には自然には存在しないのだそうです。
この赤い色素を食べて赤くなるのがフラミンゴ。
マルゲリータ・ディ・サヴォイア塩田では、1996年に250羽のフラミンゴが確認され、翌年には180羽のヒナが誕生したのだそうです。

マルゲリータ・ディ・サヴォーナ塩田のスライドショー
 ↓
youtube.com


地中海!というイメージのトラーパニの塩田とは、雰囲気がかなり違いますね。


“AUDIO 2”という2人組の「COME DUE BAMBINI」という曲のPV。
なぜかマルゲリータ・ディ・サヴォイア塩田で撮影してます。






イタリアの塩の話、次回に続きます。



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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2006年11月号(クレアパッソで販売中)
“世界の塩、イタリアの塩”の記事の解説は、総合解説'06&'07年11月号、P.16に載っています。


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2009年1月9日金曜日

グラッパのテイスティング

今日はグラッパの話。
『クチーナ・エ・ヴィーニ』の記事の解説です。

『クチーナ・エ・ヴィーニ』に、グラッパ造りを家業として取り組んでいる造り手を紹介する記事がありました。
イタリア中に、色んなグラッパメーカーがいるものですねえ。
グラッパの種類もたくさんあります。
色だけ見ても、透明のグラッパ、琥珀色のグラッパ、黄金色のグラッパがあり、さらにそれぞれに違うニュアンスがあって、きりがないくらいです。


Botellas de Grappa en el Ristorante Alessandro
グラッパ, photo by Javier Lastras


ワインをテイスティングする時は、独特の表現を使いますよね。
たとえば、なめし革の香りとか。
以前、汗をかいた馬の鞍の香り、なんて訳したこともあります。
グラッパの場合も様々な言葉で表現しますが、その内容が、当然のことながらワインとはちょっと違っていてなかなか面白いんです。

たとえば、ピエモンテのゲンメ地区の造り手、ルイジ・フランコーリの“グラッパ・バリック・デル・リムーザン”ならこんな風。

艶のあるオレンジがかった琥珀色
強く、典型的な香り
甘草、黒こしょう、カカオ、ドライフルーツの香り
レーズン、柑橘果実の皮、蜂蜜の味
コクがあって柔らかく、バランスの取れた味
奥にスパイス、パスティッチェリーア、タバコの香り
さらに奥にフルーツの香り


このグラッパは、ぶどうはピエモンテ産のものを数種類使用。
まず、5000リットル入りのオークの樽で30ヶ月寝かせ、これをもっと小さくて板の厚い樽に移して12ヶ月熟成。
さらに225リットルのリムーザン・オークのバリックで6~12ヶ月精錬しています。
アルコール度は42%。


メッザコローナ地区(トレンティーノ)のベルタニョッリの“コラリス・リゼルヴァ・バリック”は、こんな風味。
このグラッパ

琥珀色がかった美しい黄金色
甘い香り
熟した桃やあんずジャムの香りに、トルタ・マルゲリータやレモンのデリツィアの香りが溶け込んでいる
バニラ、オーク、トーストしたヘーゼルナッツ、アーモンド、蜂蜜、レーズン、ナツメヤシ、マルメロのジャムのアロマ
とてもバランスのよい柔らかな味
余韻にパスティッチェリーアの風味
最後にトースト香、草やドライフルーツの香り


このグラッパ、ぶどうはトレンティーノ地区産のテロルデゴ、シャルドネ、トラミネル。
バリックで最低24ヶ月熟成させています。
アルコール度は40%。

いや~この文を訳している間、レモンのデリツィエとトルタ・マルゲリータが頭の中をぐるぐるしてましたよー。
グラッパの話だということ、危うく忘れそうになりました。
これだけ甘いもんを並べといて、最後に残るのは草の香りって、いったいどんな味のグラッパなのか、強烈に気になるー!


この調子で12本のグラッパのテイスティング結果を訳したら、“グラッパ・バリックが飲みたい病”にかかったみたいです。


グラッパ・バリックのCM






ベルタニョッリのPV。
グラッパだけでも30種類近く作っている大手です。






おまけの動画。
グラハム君が生まれて初めてグラッパを飲みます。
笑えます。

youtube.com



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関連誌;『クチーナ・エ・ヴィーニ』2007年10月号
“グラッパ~ファミリービジネスのグラッパメーカーたち”の解説は、「総合解説」'06&'07年10月号、P.33に載っています。


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2009年1月7日水曜日

ピエロパンのソアーヴェ

まずはクレアパッソからのお知らせ。
次の配本は、もうすぐの予定です。
今、一所懸命解説書を作っているところです。
もう少々お待ちくださ~い。

さて、今日はワインの話。
『ガンベロ・ロッソ』の記事の解説です。

今回取り上げるのは、ソアーヴェのリーダー的カンティーナ、ピエロパン

ピエロパンは、1890年に、医者だったレオニルド・ピエロパン氏が創業したヴェローナのカンティーナです。
ピエロパンのソアーヴェには、印象的なラベルがついているのですぐに分かります。

2004 Pieropan Soave Classico
ピエロパンのソアーヴェ・クラッシコ, photo by ulterior epicure


このラベルの絵は、ぶどうの若枝をデザインしたもの。
1920年代からずっとこのデザインなんだそうです。
現在、ピエロパンでは3種類のソアーヴェ・クラッシコを造っていますが、そのどれもにこのラベルが貼られています。

ピエロパンのワイン
pieropan.it


ピエロパンのどこが素晴らしいのかと言うと、『ガンベロ・ロッソ』の記事ではこう説明しています。

現在の経営者のレオニルド(ちなみにこの名前、ピエロパンの創業者であるおじいさんの名前を受け継いだんですねえ)が、コネッリアーノのワイン醸造学校を卒業したのは1967年のこと。
彼は学校で学んだ知識をピエロパンに取り入れた。
設備やぶどうの選別方法を変え、圧搾を軽くして究極の澄んだモストにする方法を追求した。
細心の注意を払って彼が造り出した新しいソアーヴェに、消費者は驚いた。
これほどまでに明確で、澄んだ、花のような香りを持ったソアーヴェは、誰も知らなかった。
中にはこれはソアーヴェではない、という声もあったが、ピエロパンの哲学を理解した人たちはこぞって賞賛した・・・


ピエロパンの単一の畑のぶどうだけを使った最初のソアーヴェ、“カルヴァリーノ”が誕生したのは1970年代。
最初のヴィンテージは1971年でした。
この時、新しいソアーヴェ像が誕生したんですねえ。

ピエロパンの単一の畑のぶどうを使ったもう一つのソアーヴェ、“ラ・ロッカ”。
カルヴァリーノはガルガーネガ(ガルガネーガ)70%とトレッビアーノ30%のワインですが、ラ・ロッカはガルガーネガ100%。
記事にもある通り、ピエロパンではガルガーネガの栽培や醸造にとても熱心に取り組んでいて、彼らの情熱が注がれたワインになっています。
最初のヴィンテージは1978年。

このワイン、2001年版のガンベロ・ロッソの『ヴィーニ・ディ・イタリア』で、ベスト白ワインに選ばれています。
その時、『ガンベロ・ロッソ』誌にはこんなコメントが載りました。

ソアーヴェのことを安売り用のワインだと思っている人は、本誌がベスト白ワインにソアーヴェを選んだことを意外に思うだろう。
ところが実は、ソアーヴェ地区はここ数年、イタリアで最高の白ワインと甘口ワインの産地の一つとみなされるようになっている。

レオニルド・ピエロパンは、この地区の高貴な精神を30年来代表してきた人物だ。
ソアーヴェがイタリアの代表的な白ワインの一つとして、味よりも知名度でしか評価されていなかった時代に、すでに彼はもっと先を行っていた。
卸売商だったピエロパンは、70年代に条件に恵まれた土地を購入し(その中にラ・ロッカのぶどう畑も含まれていた)、新しいソアーヴェを造り始める。
彼のワインは他よりやや高価だったが、とてもフレッシュで清らかさがあると同時に、素晴らしい複雑さもあった。

今回選ばれたソアーヴェ・“ラ・ロッカ”は、畑を購入してから20回目に収穫したぶどうから造られた。
収穫を重ねるたびに成熟していった技術と感性によって、このワインは素晴らしい仕上がりになっている。
ラ・ロッカのぶどうは、樹齢40年以上、25年、15年になったばかりの3種類で構成されている。
収穫は遅摘みで、2回に分けて行う。
ガルガーネガ100%で、500リットル入りの樽で収穫の翌年の2月まで寝かせ、これを大型の樽に移してさらに寝かせてからびんに移す。

ワインは黄金色を帯びた麦わら色で、魅力的で複雑な香り、熟した果実や花の香り、デリケートなスパイスの香りがあり、口に含むと豊かなニュアンスと驚くほどのこくがある。
味はよく持続し、エレガントで調和が取れている。
過去も含めて最高のソアーヴェの一つ。



クッジョブ、ピエロパン!



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関連誌;『ガンベロ・ロッソ』2007年10月号
“ピエロパン”の記事は「総合解説」'06&'07年10月号、P.31に載っています。


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2009年1月5日月曜日

縁起もの尽くし

新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いしま~す♪

2009年ですねえ。
皆様、どんな新年を迎えたのでしょうか。
せめて新年ぐらいはおめでたく行きたいなあ、ということで、今年最初のお題は、「縁起の良い食べ物」。

今から9年前の『ア・ターヴォラ』1月号に、「幸運を運ぶ食材を使った新年の料理」という記事がありました。

それによると、イタリア人が縁起が良い食べ物、と信じているのは、

■ウナギ;喉の守護神、アンジェローナのシンボル。毎年冬至の日にはアンジェローナの祭りが行われる。
 ↑
ということは、インフルエンザ予防にはウナギを食べといた方がいいかも?
イタリアではクリスマスイブの夜にウナギを食べる習慣がありますが、これは、ウナギをサタンのヘビの象徴とみなしているからなんだとか。


l'arte... do capitone
カピトーネことオオウナギ, photo by Angelo Ferrillo


■オレンジ;色や形が太陽を連想させる。太陽は命をもたらし、あらゆる分野の成功の象徴とみなされる。
 ↑
シチリア風のオレンジのインサラータなんかイメージにピッタリですね。

ブラッドオレンジと赤玉ねぎのインサラータ 

■スパイス入りビスコッティ;スパイスは幸運の星、木星の象徴。
 ↑
スパイスがたっぷり入ったシエナのパンフォルテも、年末年始の縁起もの。

■レンズ豆;金貨に似ている、煮ると2倍になる、などの理由で幸運のシンボルと言われる。
 ↑
年末年始にレンズ豆を食べるとお金がたまるとか。
ザンポーネの付け合わせにしたりして、イタリアの年末年始には大活躍のレンズ豆ですが、クリスマスケーキと同じで、新年を過ぎると栄光の座から下ろされてしまうんですねー。


...coltivava un gusto particolare per i piccoli piaceri...
photo by Enrica Corvino


■豚肉;豊さと多産のシンボル。

■ザクロ;富と恋愛成就の象徴。


simpatico spilungone
photo bytruijllo


■りんご;組織に属さない人や文化人に幸運をもたらす。

■くるみとドライフルーツ;予期せぬ幸運のシンボル。

■パン;発酵して膨らむことから縁起が良いと信じられている。

■魚;幸運をもたらす。魚そのものにはこだわらず、魚の形が縁起が良い。

■サケ(サーモン);事業の成功のシンボル。

■トッローネ(ヌガー);卵や蜂蜜と言った材料がどれも太陽や再生のシンボルなので縁起が良い。


Giant Torrone
ジャンボトッローネ, photo by Renée S.


■卵;太陽の象徴。富と豊かさをもたらす。

おまけ
■金貨(またはおもちゃの金貨);世界共通の幸運のシンボル。
 新年の夜に食卓の東側に積み上げておく。

この他に、ぶどうも新年に幸福を運んでくる食べ物と信じられているとか。


イタリアのクリスマスシーズンは、1月6日の御公現の祝日(エピファニア)で終了。
この前夜には、ベファーナと呼ばれる魔女のような姿をした老婆が、良い子たちが暖炉に吊るした靴下にお菓子を詰めていく、イタリア版サンタクロースのようなイベントがあって、ちびっこたちは大喜びの日。


Le calze della Befana...
ベファーナの靴下, photo by Marco Trevisan


è arrivata la befana
あっ、ベファーナが来たよ!, photo by muscolinos


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いっぱい入ってたね, photo by muscolinos



今年一年が、皆様にとって良い年になりますように♪


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マリア・ルイジアの小さな街、パルマのバターとグラナの娘、アノリーニ。本物は牛と去勢鶏のブロードでゆでます。

昨日の最後にサラっと登場したアノリーニですが、このパスタ、(CIR12月号P.5)にもリチェッタが載っていました。クルルジョネスの次の料理です。花の形の可愛い詰め物入りパスタ、なんていうのがこのパスタの印象ですが、イタリア人は、こんな風に思ってるんですね。 「マリア・ルイジアの小...