シチリア料理の話、続けます。
『ラ・クチーナ・イタリアーナ』の解説です。
モンズーによって独特の貴族料理が生まれたシチリア。
その料理は、モンズーの見習い料理人などを通してシチリアの庶民の間にも知られていきました。
モンズーが活躍した時代は、フランス革命やナポレオン戦争を経て、イタリアが統一に向かっていた時期です。
古い貴族社会には斜陽の兆しが漂い、平民からは裕福な新興ブルジョワジー層が誕生して、新しい時代の担い手となっていこうとしています。
庶民にはパワーがありました。
それが、シチリアならではの大らかさ、自由な発想、ユーモア、そして貴族への憧れと結びついて生まれたのが、シチリアの「もどき料理」です。
そんなもどき料理の代表的な一品が、サルデ・ア・ベッカフィーコSarde a beccafico。
今や、イタリアを代表するイワシ料理の1つです。
こんな料理。
“ベッカフィーコ”とは、ニワムシクイという野鳥。
体長14cm、重さ16~22gというスズメ程度の小鳥です。
日本語では「庭の虫を食べる鳥」という意味ですが、イタリア語では、“ベッカ”は「ついばむ」、“フィーコ”はイチジク。
つまり、「イチジクを食べる鳥」という意味。
しかも、熟したイチジクだけを食べるグルメな鳥なんだそうです。
↓ベッカフィーコ
この小鳥を、シチリアの貴族は狩りでしとめて食べていたわけですが、なかなか美味しかったようで、その料理は貴族の間ではとても人気がありました。
そして庶民がその外見をコピーしたのが、サルデ・ア・ベッカフィーコです。
ただし、この料理にも諸説あって、たまたま外見が似ていたから、後付けで名付けたと言う説もあります。
いずれにしても、貴族しか食べることが出来ない高級料理を、よりによって超格安なイワシとパン粉で再現するとは、シチリアの庶民はなかなかユーモアの分かる人たちです。
貴族たちは、ベッカフィーコの尾をつまんで食べたのだそうです。
だから、オリジナルに忠実に作るなら、この料理はイワシの尾をつけて作るのが正統派。
ところが、この料理もアランチーニと同じで、パレルモ派とカターニア派に分かれているんですねえ。
パレルモ派とカターニア派では、同じサルデ・ア・ベッカフィーコという名前でも、見た目がまったく違います。
パレルモ派は1枚のイワシに詰め物をのせて巻き、カターニア派は2枚の平らな切り身で詰め物をはさみます。
↓カターニア派のサルデ・ア・ベッカフィーコ
↓パレルモ派(英語)
では、次回はサルデ・ア・ベッカフィーコのリチェッタです。
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関連誌;『ラ・クチーナ・イタリアーナ』2008年3月号
サルデ・ア・ベッカフィーコを含む“パレルモ”の記事の解説は、「総合解説」'08&'09年3月号に載っています。
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